-銀行前-
警察のパトカーが銀行の周りを取り囲み、数人の警官が一般人が侵入してくるのを防いでいた。
そして、近くにはテレビ局の車も停まっており、夕方のニュース番組でよく見るレポーターが生放送の準備をしていた。
しかし、そのような状況ではあるが、銀行前は意外なほどの静けさを見せていた。
警察が規制しているからであろう。
そして、その内にレポーターは報道を始めた。
レポーター「今、私は強盗犯が立てこもっている銀行前に来ています。」
レポーター「先ほど警察が到着し、銀行の周りを取り囲み、突入の機会をうかがっているようです。」
レポーター「人質は、銀行員が7名、一般客の人数は不明です。」
レポーター「現在、犯人からは何の要求もありません。」
レポーター「人質の安否が気遣われています。」
刑事「警部、どうしますか?」
警部「まあ、まて。情報が何も無いうちは早まったまねをするなよ。」
刑事「了解です。」
警部「なぁに、いづれチャンスは訪れるさ。」
刑事「分かりました、機動隊はいつでも突入できるように準備しておきます。」
警部「おぅ、頼んだ。」
銀行前は、静かに動き始めていた。
EPISODE 2
-銀行内-
そこにいたのは、おかもちを持ったラーメン屋の男だった。
まさか、警察と同時に来るとはね・・・・・・
さすがにそういう状況は考えていなかったさ。
まあ、さすがの僕でもそういう事もあるだろう。
覆面男1「おう、早かったな。」
覆面男2「早くこっちに持ってこい。」
男「はいはい、ただいま。」
覆面男たちは、待ちきれないというように男を呼び寄せると、ラーメンを受け取った。
覆面男1は、味噌ラーメン特盛と餃子。
覆面男2は、チャーハン大盛とチャーシューメン大盛。
それぞれ受け取ると、出前のおかもちにはラーメン一つが残った。
男「で、このラーメンはどちら様のですか?」
覆面男1「ん?ああ。それはそこの男に渡してやれ。」
そう言うと、覆面男1は手に持った箸で僕のほうを指した。
ってちょっと待て。
なんで僕に!?
驚いた僕が疑問を口に出そうとすると、覆面男1がそれを遮って言った。
覆面男1「なぁに、お前には色々とやらせたからな。報酬だと思って遠慮せずに食え。」
二階堂「・・・・・・」
僕は言葉も出なかった。
セリフだけ聞くと良い奴なのに、やってることは銀行強盗だしな。
大体、そんな気を使われても困るだけだというのが分からないのだろうか。
・・・・・・
・・・・・・・・・
分かってないんだろうな・・・こいつらには。
と、その時出前の男が言った。
男「それじゃ、2500円いただきます。」
覆面男1「・・・・・・なんだって?」
男「ですから、ラーメン代2500円になります。」
・・・・・・
・・・・・・・・・
こ、この男状況が分かってないのか?
怪しい覆面の男が2人。
それ以外の人は全員床に手を付いて座っている。
というか、その状況でよくこの中に入ってこれたなとは思うが。
ちなみに、覆面男2は既に食べるのに夢中で、こちらの話には入ってこようとしていなかった。
覆面の小さな口で、器用に食べているものだな。
覆面男1「・・・・・・おい、お前。払っておけ。」
二階堂「僕が!?」
また僕を指差して言う覆面男1。
というか、律儀に払おうとしていることに驚いたぞ。
覆面男1「今、持ち合わせが無くてな。」
二階堂「今さっき麻袋に詰めさせた金は!?」
覆面男1「いや、もったいないだろ。」
二階堂「せこい!」
覆面男1「なんだと・・・・・・?」
や、やばかったか・・・?
少し言い過ぎたかもしれない。
しかし、僕は怯まなかった。
二階堂「い、いや・・・・・・大体、銀行の金がその袋に全部入りきるわけが無いんだから、代金分を銀行から出させればいいじゃないか。」
覆面男1「なるほど、それもそうだな。おい、そこの女。代金を出しておけ。」
さすが僕、銀行強盗相手に一歩も引かなかった。
覆面男1は、先ほど麻袋に金を詰め込ませた銀行員に、代金を払うよう指示した。
銀行員は、なぜか敵を見るような視線で僕を見ながら金庫から払った。
ちなみに、それを見るために僕が周りを見渡すと、みんなが冷たい視線を僕に送っていた。
な、なぜ・・・・・・?
冷たいを通り越して、殺意すら感じる視線に、僕は背中を向けるしかなかった。
いや、決して自分の金を使いたくなかったからとかそういうのじゃなくてだな。
誰に言うとも無し、僕は心の中で弁解した。
ちなみに、となりの景子君は見なくても大体分かるので見なかった。
男「はい、確かに頂きました。それでは!」
男はそう言うと、来たときと同じように銀行の正面扉を開けて外に出て行った。
それを見た覆面男1は、覆面男2と同じように器用に食べ始めた。
さすがにこの時僕は気が付いた。
あの男は、警察に内部の情報を探ってくるように指示されていたのだろう。
でなきゃ、あんなに堂々としてはいられないはずだ。
それを知り、僕が次にやるべき事がおのずと分かってきた。
そう、まずは人質をなるべく少なくして、警察が突入しやすいようにする。
そして、犯人の気を反らせ、隙を作る。
警官隊突入、犯人確保。
最後には、僕が外で心配して待っているであろう弥生さんと感動の再会。
二人抱き合いながらエンディングに突入だな。
よし、そうと決まれば行動あるのみ。
僕は覆面男たちに話しかけた。
二階堂「すまない、少々話があるのだが。」
覆面男1「ラーメンのびるぞ。早く食え。」
そう言いながら、銃口をこっちに向けた。
なんて卑劣な・・・
そう思いながら、僕は仕方なくラーメンを食べることにした。
ちなみに、ラーメン屋の言うとおりまずかった。
覆面男1「ふぅ、うまかったな。」
覆面男2「最高だったな、兄貴。」
どうやら、2人とも食べ終わったらしい。
もう、こいつらの味覚については何も言う気は無かった。
僕も、吐き気を催しながら何とか食べきった。
・・・・・・吐き気を催すほどの不味さは問題ではなかろうか?
僕は、吐き気を抑え、気を取り直して覆面男たちに話しかけた。
二階堂「それで、聞いてほしいのだが。」
覆面男1「ん?なんだ?」
どうやら、腹も膨れて気が緩んでいるらしい。
幸せそうな顔をこちらに向けてきた。
というか、こいつら自分達が銀行強盗犯だということを自覚しているのだろうか?
二階堂「まずは、外を見てくれ。」
外を見る覆面男たち。
そこには、銀行を取り囲む警察と報道陣があった。
覆面男1「あ、そういえばいたな。」
覆面男2「あ、兄貴。いつのまに!?」
こいつら、ラーメン食べたらすっかり忘れてたな。
二階堂「そこで、僕の話を聞いてほしい。」
僕は冷静に話しかけた。
ここで失敗するわけにはいかない。
なぜなら、弥生さんとの抱擁が・・・・・・いや、人質の命がかかっているんだからな。
二階堂「まず、これだけの人質を取っていたら、逃走のときに不利だとは思わないか?」
覆面男1「ふむ、確かに一理あるな。」
覆面男2「お、おう。」
よし、つかみはOK。
二階堂「そこで提案なのだが、人質を解放すると言うのはどうだろうか。」
覆面男1「お前、何を馬鹿なこと言ってるんだ?」
覆面男2「そうだそうだ!そんなことできるわけ無いだろ!」
まあ、そう来るだろうな。
二階堂「まあ、最後まで聞いてくれ。人質として僕が残るというのでは駄目だろうか?」
ザワザワ
店内がざわめく。
僕の提案が意外だったのだろうか。
いや、僕の勇姿に感動したのだろう。
銀行員「あの人、何カッコつけてんの?」
男性「どうでも良いんじゃないか?俺達が助かれば。」
ちょっとまて、おい。
覆面男1「ほほぅ。お前がな。」
覆面男1は、どこか楽しげに笑った。
覆面男2「でも、お前にそれだけの価値があるというのか?」
覆面男2が疑いの目で言った。
まあ、こいつらは僕のことを知らないから仕方ないだろうな。
二階堂「ふっ、僕を誰だと思ってるんだ?」
覆面男1「・・・・・・誰だ?」
二階堂「聞いて驚け、僕はあの桂木探・・・・・・」
ドゴッ!
殴られた。
頭から血が流れている。
また灰皿かな?
ああ、誰がやったかは分かるんだが、なぜやられたかが分からないのだが・・・
ちなみに、覆面男たちは何がなにやら分からない様子でいる。
二階堂「で、景子君。なぜ殴るんだい?」
景子「二階堂さん、馬鹿ですか?あ、失礼しました。馬鹿でしたね。」
二階堂「・・・・・・」
景子「尾行相手の目の前で自分が探偵だと明かしてどうするんですか。」
あ、尾行してたこと忘れてた・・・
二階堂「そ、そんな事は分かっていたさ。」
景子「言い訳は結構です。」
最近、景子君冷たくないか?
二階堂「わ、分かった。だか殴るときはもう少し手加減してくれないか?」
僕は頭に生暖かいものを感じながらそう言った。
景子「だったら殴られないようにして下さい。」
鬼だ。
そう思ったが決して口には出来なかった。
天才にも弱点はあるということだな。
そしてやっぱり目の前が霞んでいたが、仕方が無いだろう。
覆面男1「おい・・・・・・大丈夫・・・か?」
犯罪者に心配されてどうする。
二階堂「あぁ、とにかく僕が何者でも、人質というものは一人いれば十分だとは思わないか?」
よし、完璧。
これなら殴られることも無いだろう。
覆面男2「兄貴、そうなのかい?」
覆面男1「あ、あぁ。そう・・・・・・なのか?」
どやら、よく分かっていないようだった。
こいつら、本当に銀行強盗だという自覚は無いようだな。
二階堂「僕を人質に、警察に逃走用の車でも用意してもらって逃げればいい。」
覆面男1「ふむ、それはいい考えだな。」
少し納得し始めたようだな。
覆面男2「なあ、兄貴。どうする?」
よし、後一歩だ。
二階堂「大丈夫、警察は手を出せないさ。外にはマスコミも来ている。そんな中であまり無茶をして人質に怪我をさせたら問題になるからな。」
覆面男1「・・・・・・よし、その手で行くか。」
覆面男2「やるんだな、兄貴。」
ふっ、乗せやすい奴らで助かったな。
後は、景子君と話し合い、何か合図を決めておくだけだ。
僕はその計画を実行に移すために、顔は覆面男たちに向けたまま、となりの景子君に話しかけた。
二階堂「景子君、話があるのだが。」
景子「分かっています、二階堂さんが考えていることぐらい、私に分からないとでも思いましたか?」
いや、君は本当に事務なのかい?
二階堂「そ、そうか。なら頼んだ。」
景子「二階堂さんこそ失敗しないで下さいよ。」
と、話がまとまった時だった。
覆面男1「ただ、一応そこの女も残れ。」
そう言って、覆面男1は景子君を指差した。
ってちょっと待て!
それじゃ僕の計画が狂うじゃないか!!
覆面男2「そうだな、やっぱり女もいた方が何かと便利かもしれないしな。」
いや、お前ら大きな間違いを犯そうとしているぞ。
景子君を普通の女性だと思っていると・・・・・・死ぬぞ?
僕は哀れみを込めた目で覆面男たちを見た。
無知は罪なり・・・・・・
しかし、そんな僕の気遣いなど知らないようで、覆面男たちは景子君も残すことに決めたようだった。
覆面男1「それじゃあ、他の奴らは外に出ていいぞ。」
そう覆面男1が言うと、他の人たちは我先にと出口に駆け出した。
覆面男1「ああ、ちょっと待て。お前には警察に伝言を頼む。」
銀行員「え、私・・・・・・ですか?」
呼び止められた銀行員は、緊張した表情で立ち止まった。
ちなみに、またあの女性銀行員だった。
覆面男2「兄貴、何て言うんだい?」
覆面男1「そうだな、何て言ったらいいんだ?」
なぜそこで僕に振る。
二階堂「とりあえず、『逃走用に車を用意しろ。下手な真似をしたら人質の命は無いと思え。』くらいで良いんじゃないか?」
覆面男1「それじゃあ、そう言っておけ。」
無言で頷き、銀行員は早足で出て行った。
そして、しばらく後。
銀行内には覆面男2人と、僕と景子君の4人だけが残った。
恐らく、外では人質になっていた銀行員達から内部の事情を聞いた警察が何らかのアクションを起こしてくるだろう。
こいつら、うまく口車に乗ってくれたおかげで、外との連携が取れる状況になったしな。
まあ、確かに計画は少々狂ったが、何とかなるだろう。
なにせ、僕は天才探偵なんだからな。